京都大学 大学院工学研究科 電気工学専攻 生体医工学講座 生体機能工学研究室

ENGLISH

研究紹介

電界・磁界の数値計算法とその生体機能工学への応用

生体内の細胞組織は微弱な電界・磁界・電磁界の発生源になると同時に、誘導電流・ジュール熱・電磁力などを通じて外部からの電界・磁界・電磁界の影響を受けます。こうした現象の有効利用と安全性の確保とが重要な課題となっています。有効利用例としては、非侵襲診断技術にMEG・EEG・MRIなどが、治療技術に経頭蓋磁気刺激法(TMS)・電気けいれん療法(ECT)などが挙げられ、加えてブレイン-マシン・インタフェース(BMI)・体内機器給電などへも応用が期待されています。 一方、安全性の確保のために、電磁界発生源(電力機器・家電製品・携帯機器)周辺の電磁界強度評価や、人体への暴露量(Dosimetry)評価などが重要な課題となっています。こうした様々な分野において、実験的手法と相補的に、数値実験的手法が広く用いられています。後者の長所は、倫理的な問題が少ないこと、理論との整合性が高いこと、比較的コストが低いこと、再現性があること、実験自由度が高いことなどです。しかし、その信頼性向上・所要時間の削減・より現実に近い数値模擬のためには電界・磁界・電磁界の数値計算技術のさらなる高度化が不可欠です。本研究では、多球モデル内電磁界の厳密解解析や、汎用モデル解析のための境界要素法の高速・大容量・高精度化に取り組んでいます。前者は電磁界計算の校正標準としての価値を有し、10数桁の計算精度での解析を可能にしています。後者については、表面電荷法を用い、ボクセルモデル内の場を高速計算する手法や、異方性媒質を取扱う手法を考案し、計算の汎用性を高める研究を行うとともに、ソフトウェア技術として高速多重極法(FMM)や3次元高速フーリエ変換(3D-FFT)を用いたり、ハードウェアとしてGPUを用いたりすることで、計算の高速・大容量化を実現する研究を行っています。例えば、800万ボクセル程度の全身人体モデル(NICT TARO モデル)内の低周波誘導電界計算が1台のPCを用いて数分程度で実行可能になっています。

本研究に関連する著書と最近の論文

  • 宅間董、濱田昌司: 理工学講座 数値電界計算法の基礎と応用, 東京電機大学出版局 (2006)
  • 濱田昌司,北野允大,小林哲生: 極変換付き等価多重極モーメント法の脳磁界順計算への適用, 電気学会論文誌A, Vol. 127, No. 4, pp. 171-179 (2007)
  • 濱田昌司,北野允大,小林哲生: ボクセルデータ用高速多重極表面電荷法の誘導電界計算精度の評価, 電気学会論文誌A, Vol. 128, No. 4, pp. 223-234 (2008)
  • 濱田昌司, 増谷圭吾, 小林哲生: Gumerov の2スカラポテンシャル法による多球モデル内時間調和電磁界解析, 電気学会論文誌A, 129巻4号, pp. 168-176 (2009)

(上左図:EEG用、
上中図:MEG用、
上右図:TMS用、
下左図:頭部多球モデルへの平面波印加、
下右図: 全身モデル内誘導電界)