京都大学 大学院工学研究科 電気工学専攻 生体医工学講座 生体機能工学分野 小林研究室

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研究紹介

拡散テンソルMRIを用いた精神疾患における白質病変の定量解析

我々の研究室では,電気電子工学技術を基盤とする先端の生体計測,並びにそれを用いた中枢神経系の機能の解明や医療,福祉分野への応用研究を行っている.中でも磁気共鳴画像(MRI)を中心とした機能や形態の計測とイメージングを主要なテーマと位置づけている.MRIシステムは現在広く臨床における画像診断に用いられており,印加する磁場の制御,磁気共鳴信号の計測,信号処理,画像化などの技術を統合し,一つのハードウェアで様々な情報を画像化することが可能なシステムである.近年,このMRIシステムを用いて生体内の水分子の拡散情報を捉えるMR拡散強調画像(MR Diffusion-weighted Imaging; MR-DWI)が脳内白質構造の解明に広く用いられるようになり,例えば統合失調症といった精神疾患の病態研究においても,白質における神経線維の異常が認知不全など統合失調症に見られる症状と何らかの関係があるといった可能性が示唆されている.白質には大脳皮質間を結ぶ多くの神経線維束が張り巡らされているが,異方性など詳細な白質構造は従来のMRIでは取得することができず,MR拡散テンソル画像(MR Diffusion Tensor Imaging; MR-DTI)計測によりはじめて可能となった.詳細は参考文献1に挙げる解説を参照されたい.

当研究室では,MR-DTI研究の一つとして精神神経科の研究者と共同で白質線維追跡法を用いた統合失調症患者の白質病変の研究を行なっている.近年,統合失調症にみられる認知不全や前頭葉機能低下は,その原因が大脳皮質の前側に位置する前頭前皮質と脳深部の視床や線条体と呼ばれる深部組織を接続する神経回路における何らかの障害・損傷に由来するとの仮説が認められつつある.そこで,我々は統合失調症患者群20名と健常者群20名の視床から内包前脚に抜けて前頭葉へ伸びる左右半球の神経線維束をMR-DTIを用いた神経線維追跡法により解析し,追跡開始領域における線維束断面積を比較すると,統合失調症患者においてこの部位の白質線維接続が,線維の絶対量は変化していないもののその走行方向に異常をきたしている可能性が高いことを見いだし報告した[2].図1は,この解析法により得られた健常者における白質線維追跡結果の例を示している.現在さらに,精神疾患の定量評価を目指し,大脳半球内を前後に走行する代表的な神経線維束である上縦束[3]や他の神経線維束の解析を進めている.また,この白質線維追跡法が躁鬱病の白質病変解析にも有効である事を報告している[4].MR-DTIは,精神疾患の解明,診断,治療効果の評価に有用であり,今後も医学系の研究者との密な連携により医療や脳科学に貢献する研究を進める.

図1 視床から内包前脚に抜けて前頭葉へ伸びる神経線維追跡結果の例.
(左) x-y断面,(右)3D表示

本研究テーマに関連する文献

  1. 小林哲生:”MRI技術の最前線:拡散MRIとその脳機能計測・白質病変解析への応用(解説)”,システム制御情報学会誌,Vol.54, No.2, pp.58-65 (2010)
  2. S. Kito, J. Jung, T. Kobayashi and Y. Koga: Fiber tracking of white matter integrity connecting the mediodorsal nucleus of the thalamus and the prefrontal cortex in schizophrenia: A diffusion tensor imaging study, European Psychiatry, Vol.24, pp.269-274 (2009)
  3. 山本詩子,小林哲生,鬼頭伸輔、古賀良彦:MR拡散テンソル画像を用いた線維追跡法による統合失調症患者の大脳白質病変の解析, 電気学会論文誌C,Vol.130-C, No.5, pp.799-806 (2010)
  4. Ikeda, S. Kito, J. Jung, T. Kobayashi and Y. Koga: Decreased cross-sectional area of anterior tharamic peduncle in bipolar disorder: A fiber trackimg study, J of Inter. Soc. of Life Information Science, Vol.28, No.1, pp.14-22 (2010)